【BL短歌鑑賞】夕去りの書架に艶めく天人五衰かつて僕らは野球部だった(孤伏澤つたひ)

五限目の講義を終えて研究室に駆け込むと、近くの中学校から野球部の掛け声が聞こえてきた。
ブラインドの隙間から漏れる夕日が、ちょうど本棚の、三島由紀夫の棚を照らしている。
肉刺のないなめらかな指で、僕は一冊の本を引っ張り出し、栞の挟まっている頁を開く。
もう十年近く前になる。たった一回だけ、僕は完璧なホームランを打ったことがある。
バットを振るった一瞬、夕空にボールが音もなく吸い込まれていった。
それにどんな手ごたえも感じられなかったものだから、僕は打席にただ棒立ちになっていた。
きっといまでも少年は窓の外で立ち尽くしている。日の傾きかけたグラウンドで、己の打球を見つめ続けている。
僕は最早その全能感を、懐かしく愛おしく思うしかない。

 

【BL短歌鑑賞】ネムカケス(@kakesunemu )